建築ZINE『輪郭をなぞる』| 日向版

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日向の地形・気候を読み解く

ZINE『輪郭をなぞる 日向版 ―自然環境を可視化しながら考えた建築のこと―』の一部を紹介。
地域の地形や気候を分析し、建築の手がかりとして読みていく章を抜粋します。

地形を読む ―日向の骨格をつくった耳川

西に山、東に海。日向のまちは、向きがはっきりしている。

背中には九州山地の裾がゆるやかに寄り添い、正面にはためらいなく太平洋がひらける。山を背に、海へ顔を向けて立つ。「西に山、東に海」という単純で力強い方向性が、この町の“明るさ”をかたちづくっている。

日向の骨格を据えたのが、山から下ってきた耳川だ。九州の中心部を源流に、椎葉・諸塚・美郷をめぐって日向へそそぐ耳川は、かつて塩見川の筋を通じて砂を運び、富岡と細島のあいだの浅い海を埋め立て、いまの日向市街地の土台をつくった。

砂のまち ―海と砂丘、後背湿地―

川が運んだ砂は、浅い海を埋め立て日向の街の土台と海沿いの長い砂浜をつくり、その背後で波が浜堤と砂丘を育てて、緑の丘へと姿を変えている。浜堤に守られた内陸には後背湿地が生まれ、水を湛えた田の景色がひろがる。延岡を、川が土台をほどく「川のまち」だとすれば、日向は砂が土台を重ね、砂丘と浜堤が海の縁を描く「砂のまち」だと言える。

その砂は波も育てている。緩やかな浜勾配と砂の海底にできたサンドバーがうねりを持ち上げ、波を生む。そして波の正面から吹く風が、波の姿勢をすっと正す。季節や嵐が砂の帯をリセットし、また育てる。きのう良かった波が、きょうは少し横へ移る。見慣れた海でも、初めての出会いがつづくのである。

風 ― どこから吹き、どこに向かうのか

日向は、年間を通して西寄りの山風が主役だ。海に大きく面していても、湿った潮まじりの海風は少なく、さわやかな風がまちを抜ける。隣町・延岡も基調は同じだが風がかなり強い。日向は通年おだやかで、窓を閉じねばならない日は多くない。

朝夕と夜は山側から風が流れ、日中は海側からへと切り替わる。朝夕は海に向かって風が吹くため波の面が整い、日中は崩れやすい――サーファーが感じるその体感の理由を風配図が静かに示している。

日向の家は、西と東に呼吸をさせる。朝夕は西を素直に開き、昼どきの東風は直に入れず、上で抜く力として使う。風配図は、いつ開き、どこをしぼるかを教える小さな設計図となる。

雨と湿り ―受け、逃がし、乾かす―

日向は、年じゅう多雨・高湿のまち。

とりわけ初夏から秋にかけては、梅雨と台風が重なり降り方が際立つ。隣町の延岡と傾向は似るが、日向のほうが一段“ 濡れる” 季節が長い。空気は重く、表面の乾きには時間が必要である。

建築は、濡れてもすぐ乾く作法に寄せる。屋根は深い軒で雨を受け流し、水切りで水を留めない。外には雨をしのぐ軒下、内には風の通る土間を介し、濡れを居住域へ持ち込まない薄い緩衝帯を設けるのも手法である。―― 受けて、はじき、逃がし、乾かす。それが、日向の多雨高湿に応える設計の基本姿勢となる。

日向の日 ―雨も多いが、光も多い―

日向は、多雨高湿でありながら、全国的に見ても晴れの日が多い。

年間の日照時間は、東京が約1,920 時間、延岡が約2,100時間、日向が約2,160 時間。春〜初夏と秋に晴れが続き、梅雨の谷を挟んで再び持ち直す。つまり「濡れるが、光が戻るのが早い」気候である。

設計では、この恵みを取り込みすぎず、上手にまわす。庇は季節の太陽の高さから深さを定め、冬は入れ、夏は切る。昼の眩しさはカーテンや簾でやわらげ、高窓で光をたぐり寄せ、天井や壁に這わせて内へ巡らす。南西に落葉高木を植え、夏は木陰を、冬は枝越しの光を通す。――多雨の町だが、日向は光の設計余地が大きい。

耳川が育んだ先人の知恵 ―美々津の町家―

美々津の町家は、気候への応答として磨かれてきた“先人の知恵”の集積だ。

美々津の町家は、風や光を編む立体的な断面構成を持つ。家の芯にある「中の間」が上下階を貫き、立体的な通風路になる。ここに面して高さの違う障子戸を並べ、季節や時刻に応じて開け方を変えることで、風の速さと光の量を繊細に調える。

通年吹く山風は、通り側の店先から取り込み、中の間へ導かれて全体へ回り、中庭へ抜ける。。中庭は光の井戸であり、同時に風を吸い上げる煙突でもある。

耳川が育んだ先人の知恵 ―十根川集落の竿家―

十根川集落の竿家も、気候、そして地形への応答として磨かれてきた“先人の知恵”の集積だ。

山襞が幾重にも重なる急斜面に、十根川の家は等高線に沿って置かれる。急峻な斜面に石垣で平地を作る多大な労力を最小限に留める工夫だ。そうしてできた細長い平地に、部屋が一列に並んだ竿家が据えられる。

山を背にする竿家は、谷に向かってひらく。谷側を表、山側を奥とし、「表と奥」、「谷と山」のあいだに、用途と明るさのグラデーションが生まれる。谷側から片側採光は、光を静かに取り込み、光の奥行きで居場所を分ける。こうしてできる空間のレイヤーは、外気と居住域の間に空気の層をつくり、雪の降ることもある厳しい山間気候を家の中へ伝えぬよう、家をやわらかく包み込む。

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